あなたの願いを伝える準備:看取りケアの意思決定を始める第一歩
はじめに:もしもの時に備え、あなたらしい安心を
私たちは皆、いずれ訪れる終末期について、漠然とした不安を感じることがあるかもしれません。特に、「家族に迷惑をかけたくない」「自分らしい最期を迎えたい」というお気持ちは、多くの方が抱えていることでしょう。
元気なうちに、ご自身の希望や考えを整理し、周りの方と共有しておくことは、もしもの時にあなた自身が安心して過ごすための大切な準備となります。このページでは、看取りケアにおける意思決定の重要性と、その具体的な一歩について、分かりやすくご説明いたします。
なぜ今、意思を伝える準備が必要なのでしょうか
終末期の医療やケアは、ご本人の意識がはっきりしない状況で、ご家族が判断を迫られる場面が多くあります。その際、ご本人の意向が明確でないと、ご家族は「これで良かったのだろうか」という大きな葛藤を抱えてしまうことになります。
事前にご自身の希望を伝えておくことで、ご家族の精神的な負担を軽減し、ご自身も希望通りのケアを受けやすくなります。それは、あなた自身の尊厳を守り、穏やかな最期を迎えるための大切な行動と言えるでしょう。
あなたの「こうしたい」を整理する
まずは、「もしも」の時に、自分がどうしたいかを具体的に考えてみましょう。完璧でなくても構いません。心に浮かんだことを整理していくことが大切です。
- どこで過ごしたいですか?
- 住み慣れたご自宅で家族と過ごしたいですか。
- 病院で専門的な医療を受けたいですか。
- 介護施設やホスピスで穏やかに過ごしたいですか。
- どのような医療やケアを受けたいですか?
- 痛みや苦しみを和らげるケアを重視したいですか。
- 延命治療について、どの程度希望しますか。(例:心肺蘇生や人工呼吸器の装着を望むか、望まないか)
- 食事や水分補給の方法について希望はありますか。
- 誰にいてほしいですか?
- ご家族、親しい友人にそばにいてほしいですか。
- 会いたい人がいますか。
- その他、希望することはありますか?
- 好きな音楽を聴きたい、特定のアロマを使いたいなど、ささやかな願いでも構いません。
これらの問いかけは、あなたの看取りケアに対する考えを具体化するための手がかりとなります。
意思を伝える具体的な方法
ご自身の希望が整理できたら、それを形にして周りの人に伝える準備をしましょう。
1. エンディングノートの活用
エンディングノートは、財産のことだけでなく、ご自身の医療や介護に関する希望、葬儀やお墓について、家族へのメッセージなど、多岐にわたる情報を自由に書き残せるノートです。法的な拘束力はありませんが、あなたの意思をご家族に伝える有効な手段となります。
- メリット:
- 形式に縛られず、自由に気持ちを書き残せます。
- ご自身の考えを整理するきっかけになります。
- 更新が簡単で、気持ちの変化に合わせて書き直せます。
- 書き方のポイント:
- 「もしも」の時の医療やケアについて、ご自身の希望を具体的に書きます。
- どこに保管しているかを家族に伝えておきましょう。
- かかりつけ医や相談できる専門家の連絡先も記入しておくと安心です。
2. 事前指示書(リビングウィル)の理解と作成
事前指示書(リビングウィル)とは、終末期の医療に関して、本人の意思能力がなくなった場合に備えて、あらかじめ延命治療を望むか望まないかなどを書面で示しておくものです。これは、日本医師会など複数の団体が推奨しており、医療現場で尊重されるべきものとして認識されています。
- メリット:
- 医療現場でご本人の意思がより確実に伝わりやすくなります。
- ご家族が判断に迷う際の大きな支えとなります。
- 作成のポイント:
- 書式は定められていませんが、日本尊厳死協会などが作成している書式を参考にすることもできます。
- 医師や弁護士など、専門家と相談しながら作成することを推奨します。
- 作成後は、かかりつけ医やご家族と内容を共有し、コピーを渡しておきましょう。
3. かかりつけ医や相談できる専門家との話し合い
ご自身の希望を整理し、書面にまとめることと並行して、信頼できるかかりつけ医やケアマネジャー、あるいは地域の相談窓口の担当者など、専門家と話し合うことも非常に重要です。
専門家は、あなたの希望がどのような選択肢に繋がり、どのような形で実現可能か、具体的なアドバイスをしてくれます。また、医療現場の状況や法的な側面についても教えてくれるでしょう。
関わる可能性のある専門職と相談窓口
看取りケアの準備や実施には、様々な専門職が関わります。
- 医師: 治療方針の決定、病状説明、痛みの緩和などを行います。
- 看護師: 日常的なケア、身体の状態の観察、ご家族への指導などを行います。
- ケアマネジャー: 介護サービス計画の作成、関係機関との連携調整を行います。
- 医療ソーシャルワーカー: 医療費や介護保険制度、施設入所の相談など、経済的・社会的な問題に関する支援を行います。
- 相談支援専門員: 障害のある方の相談支援を行います。
お住まいの地域の地域包括支援センターや市区町村の介護保険窓口でも、看取りケアに関する相談が可能です。まずは、身近な専門家や相談窓口に連絡を取ってみることをおすすめします。
想定される費用について
看取りケアにかかる費用は、選択する場所(在宅、病院、施設)や受けるケアの内容によって大きく異なります。
- 在宅: 訪問診療や訪問看護などの費用、介護保険サービス利用料、医療材料費などがかかります。介護保険が適用される部分もありますが、自己負担分が発生します。
- 病院: 医療保険が適用されますが、個室代や差額ベッド代、食事代などは自己負担となります。
- 施設: 施設の種類(介護老人保健施設、特別養護老人ホーム、有料老人ホームなど)によって費用体系が異なります。月額利用料のほか、医療費や介護保険の自己負担分がかかります。
具体的な費用については、それぞれのサービス提供機関や、ケアマネジャー、医療ソーシャルワーカーに相談することで、より詳細な情報を得ることができます。
まとめ:一歩踏み出すことが、安心へと繋がります
看取りケアの意思決定は、人生の終盤を自分らしく、そして穏やかに過ごすための大切な準備です。漠然とした不安を抱えるよりも、元気なうちに具体的な一歩を踏み出すことで、心の安心へと繋がります。
完璧な答えを一度に見つける必要はありません。まずはエンディングノートにあなたの思いを書き出してみる、信頼できる人に相談してみる、といった小さな一歩から始めてみましょう。このサイトが、あなたの意思決定を支援する一助となれば幸いです。