元気なうちから始める看取りケア:あなたらしい選択を見つける方法
人生の終盤をどのように過ごし、どのような最期を迎えたいかという「看取りケア」について、元気なうちから考えることは、ご自身やご家族にとってとても大切な準備となります。漠然とした不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。この先の暮らしや、万が一の時に家族に負担をかけたくないという思いは、多くの方が抱えていることでしょう。
このページでは、ご自身の希望に合った看取りケアを見つけるための、具体的な選択肢や考え方について、分かりやすくご説明いたします。
看取りケアを考えることの意義
人は誰もが人生の終わりを迎えます。その時が来たとき、どのような場所で、どのような医療や介護を受け、どのように過ごしたいかは、一人ひとり異なります。元気なうちにこれらのことを考えるのは、決して縁起が悪いことではありません。むしろ、ご自身の「こうありたい」という思いを明確にし、ご家族と共有することで、後悔のない穏やかな時間を過ごすための道筋をつけることにつながります。
ご自身の意思がはっきりしているうちに考えておくことで、もしもの時に、ご家族が「どうすればよかったのだろう」と悩むことも少なくなるでしょう。
看取りケアの主な選択肢
看取りケアには、主に以下の三つの場所が考えられます。それぞれの場所には、特徴や必要な準備、関わる人々が異なります。
1. 住み慣れたご自宅での看取り(在宅看取り)
ご自宅で、家族や大切な人たちに囲まれて最期を迎えることを希望される方は少なくありません。住み慣れた場所で、ご自身のペースで過ごせる点が大きな魅力です。
- 一般的な生活内容:
- ご自宅で日常生活を送りながら、必要に応じて訪問医療や訪問看護、訪問介護といったサービスを利用します。
- 体調の変化に合わせて、医師や看護師が定期的に訪問し、診察やケアを行います。
- ご家族の協力を得ながら、生活の支援を受けます。
- 必要な準備:
- かかりつけ医や訪問看護ステーション、ケアマネジャー(介護支援専門員)を見つけ、相談を始めます。
- 介護ベッドや手すりの設置など、自宅環境の調整が必要になる場合があります。
- 介護保険サービスの利用申請を行います。
- 関わる可能性のある専門職:
- 医師(訪問診療医、かかりつけ医)
- 看護師(訪問看護師)
- ケアマネジャー(介護保険サービスの計画作成、調整)
- 介護士(訪問介護、身体介護や生活援助)
- 薬剤師(薬の配達、服薬指導)
- 想定される費用:
- 医療費(自己負担分)、介護保険サービスの自己負担分(1割から3割)、おむつなどの日用品費、場合によっては住宅改修費用などがかかります。公的な介護保険サービスを利用すれば、費用を抑えることができますが、利用するサービス内容によって変動します。
2. 病院での看取り
病状が重篤になった場合や、医療的な処置が継続的に必要な場合、病院で看取りを迎える選択肢があります。医療スタッフが常駐しており、緊急時にも迅速に対応できる安心感があります。
- 一般的な生活内容:
- 医療機関の管理下で、症状の緩和や痛みのコントロールなど、医療的なケアを中心に行います。
- 医師や看護師が24時間体制で患者さんの状態を管理し、必要な処置を行います。
- 病室で過ごすことが中心となります。
- 必要な準備:
- 入院の手続きや、病院との連携を進めます。
- ご家族との話し合いを通じて、どのような医療を受けたいか、あるいは受けたくないかという希望を明確にしておくと良いでしょう。
- 関わる可能性のある専門職:
- 医師、看護師
- 医療ソーシャルワーカー(社会福祉士、退院支援や社会資源の紹介)
- 薬剤師
- 想定される費用:
- 医療費(自己負担分)、差額ベッド代(個室などを希望した場合)、食事代などがかかります。高額療養費制度などの公的制度も利用できますが、長期入院となると費用がかさむ場合もあります。
3. 高齢者施設での看取り
介護付き有料老人ホームや特別養護老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅など、看取り対応を行っている高齢者施設で最期を迎える選択肢もあります。専門の介護スタッフや看護師が常駐しており、医療機関とも連携している施設が多いです。
- 一般的な生活内容:
- 施設のスタッフによる生活援助や身体介護を受けながら、共同生活を送ります。
- 施設のレクリエーションに参加したり、他の入居者の方々との交流を楽しんだりできます。
- 体調の変化に応じて、提携している医療機関の医師や看護師が対応します。
- 必要な準備:
- 施設の資料を取り寄せ、見学に行き、ご自身の希望に合った施設を選びます。看取り対応の有無や実績を確認することが大切です。
- 入居契約や費用の準備を進めます。
- 関わる可能性のある専門職:
- 介護職員、看護職員
- 生活相談員(入居者の相談対応や家族との連携)
- 提携医(施設の協力医療機関の医師)
- 想定される費用:
- 入居一時金(施設によっては不要)、月額費用(家賃、食費、管理費、介護サービス費など)がかかります。施設の形態やサービス内容、立地によって費用は大きく異なります。
ご自身の意思を反映させるための準備と方法
ご自身の看取りに関する意思を明確にし、ご家族や関係者に伝えることは、安心して最期を迎えるために非常に重要です。
エンディングノートを活用する
エンディングノートは、ご自身の情報を整理し、万が一の時に備えて希望を書き残しておくためのものです。法的拘束力はありませんが、ご自身の思いを伝える有効な手段となります。
- 記入しておくと良い内容の例:
- 病気になったときの医療や介護についての希望(延命治療の希望、痛みの緩和についてなど)
- どのような場所で過ごしたいか(自宅、病院、施設など)
- 葬儀やお墓に関する希望
- 財産や大切な人へのメッセージ
- ご自身の連絡先や大切な人たちの連絡先
事前指示書(リビングウィル)を検討する
事前指示書は、ご自身の医療に関する希望を、あらかじめ医療者に対して文書で示しておくものです。具体的には、病状が進んだ際に、どのような医療行為(例えば、人工呼吸器の使用や胃ろうの造設など)を受けたいか、あるいは受けたくないかを記載します。
- 法的な位置づけについては、まだ議論のあるところですが、医療現場では本人の意思表示として尊重される傾向にあります。
- 作成にあたっては、医師や専門家のアドバイスを受けながら、慎重に進めることが大切です。
ご家族と話し合う機会を持つ
最も大切なことの一つは、普段からご家族と率直に話し合うことです。ご自身の考えを伝え、ご家族の意見も聞くことで、互いの理解が深まり、いざという時の支えになります。話すのが難しいと感じる場合は、エンディングノートなどを見せながら、少しずつ話を始めるのも良い方法です。
専門家に相談する
どこから手をつけて良いか分からない、どのような選択肢があるのかもっと詳しく知りたいと感じた場合は、一人で抱え込まずに専門家に相談してみましょう。
- 地域包括支援センター: お住まいの地域の高齢者の総合相談窓口です。介護保険サービスの利用方法や、地域の医療機関・施設の情報提供など、幅広く相談に乗ってくれます。
- ケアマネジャー(介護支援専門員): 介護保険サービスを利用する際のケアプラン作成や、様々なサービス事業者との連携・調整を行います。
- 医療機関の相談窓口: 病院によっては、医療ソーシャルワーカーなどが常駐しており、入院中の生活や退院後の支援、費用に関する相談に応じてくれます。
まとめ
看取りケアについて考えることは、ご自身の人生の締めくくりを、納得のいく形で過ごすための大切な準備です。元気なうちから選択肢を知り、ご自身の希望を整理し、ご家族と話し合うことで、不安を安心へと変えることができます。
この先の人生を「自分らしく」過ごすために、今日から一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。私たちは、皆様が安心して最期を迎えられるよう、様々な情報提供を通じてお手伝いしてまいります。